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笑顔で闘おう

Rev. Tsukasa Sugimura

 今回はNHKの人気番組「新プロジェクトX」(1月18日放映)で取り上げられたタイの沖電気現地社長の物語だ。その愛あふれる行動に注目したい。

 現地社員からお父さんと慕われる名物社長の山田隆基がいた。目指していたのは第二の家のように助け合う会社で、社員は千人。自動車などに使われる半導体を生産していた。ところが、2011年秋、タイ北部のチャオプラヤ川が氾濫し、社屋のあるロジャナ工業団地が浸水した。その時、山田は敢然と立ち上がり、他の日系会社の役員たちと「タイ政府に救援を呼びかけ、企業を超えて結束するんだ」と申し合わせた。目指したのは80キロ南の首都バンコク。部品がないと日本での操業も難しいので、工場の生産ラインを一時的に日本に移すしかなく、そのためにはタイの熟練工たちを日本に派遣する必要がある。日系の関連企業から5500人近いタイ人を送るという前代未聞の大量派遣計画が持ち上がった。ジェトロの尽力で政府との粘り強い交渉がなされ、10月末、沖電気からは66人が宮崎県の半導体工場へと旅立ち、生産ラインが復活した。

 一方、現地の沖電気の社屋は平屋建のため、洪水の際に逃げる場がなく、今後の洪水対策は難しいと判断した親会社が工場の閉鎖を決めた。山田は社員を集めて頭を下げた。しばしの沈黙の後で会場から拍手が起こった。そこには笑顔があった。山田は、「みんな心の中では泣いているが、集まった時はそれを顔に出さなかった。タイ人の奥ゆかしさと、一緒に闘ったという彼らの優しさと強さを感じた」と話した。社員たちは懸命に闘った山田の姿を見ていたのだ。間もなく日本に派遣した66人全員がタイに帰ってきた。勤め先を失った彼らのために、山田は全員に再就職先を見つけていた。山田は日本に帰らなかった。工場を無くした社員と同様、タイで再就職する道を選んだのである。年に1度、山田をお父さんのように慕うかつての従業員たちは、彼の誕生日に集まる。

 「あなたがたは、主にあっていつも喜びなさい」(ピリピ4・4)と聖書は命じる。洪水があっても喜べという。その時点では喜べるはずがないが、主が十字架の向こうの復活を望み見て喜ばれたように、現実の向こうを見よ、というのだ。信仰とは現実に振り回されず、笑顔でその先を見ることだからである。

 
 
 

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