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牧師の涙

 僕が以前牧会していたオレンジ郡教会の会員で、Fさんという信仰熱心な姉妹がいた。彼女が召されて一年後、彼女の家では長男のウォルターが末期ガンのためホスピスケアを受けていた。一月二十四日、長女のジェーンから電話があり、チャンスがあれば、ぜひ彼のために祈って欲しいと言う。実は、彼の子供の一人が牧師には来て欲しくないのだが、僕が彼の家まで出向いているのであれば、病室に入って祈ることができるかも知れないという千載一遇のチャンスを願ってのことであった。翌々日、僕は出向いた。ジェーンと妹のナンシーと一緒に、表庭に張ってあったテントで彼らの両親の思い出を語り合い、共に心を合わせて祈った。その後ナンシーが彼の部屋に入って、牧師が来ていること、三十年前に彼のお父さんが悪夢にうなされて眠れなかった時に僕が呼ばれて祈ったその夜から悪夢が止んだことなどを彼に話した。父親と同様、悪夢で眠れないウォルターはその話に心動かされたようだったが、結局、僕は入れてもらえなかった。地上での最期に、目の前にいる人に福音を語れないというのは、魂のケアを委ねられている牧師にとってこれほど大きな心の痛みはない。

 一週間後、ジェーンから電話があった。ウォルターが反応しなくなったので、召される前に来て祈って欲しいと言う。僕は「すぐに行く!」と言って車に飛び乗った。すでに数人が集まっていて重苦しい雰囲気に包まれていたが、僕は急いで彼の部屋に入って行った。彼は僕の入って来たことが分かったのか、焦点の定まらない眼で虚空を見つめていた。僕は彼の両親の思い出や信仰のこと、お父さんの最期は笑顔で輝いていたことなどを話した後で、「両親が待っている天国へ帰ろう! そこにはイエス様が両手を広げて待っておられるのだから、その愛の懐に帰ろう」と何度も叫ぶように語った。そして、「僕の言っていることが分かったら、手を握って!」と言ったのだが、彼はすでに指を動かすこともできなくなっていた。僕は枕元で詩篇二三篇を読んだ。「たといわたしは死の陰の谷を歩むとも、わざわいを恐れません。あなたがわたしと共におられるからです」(4)。翌早朝、彼は召されていった。僕の勧めの言葉がどこまで彼の心に届いたのかは知る由もない。ただ天国での再会を切に祈るばかりである。

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