NHKの「ファミリー・ヒストリー」という番組に、俳優の草刈正雄が登場した。彼は戦後、駐留に来ていた米兵と日本人の母との間に生まれた子だった。母から父は朝鮮戦争で死んだと聞かされていたが、番組担当者の調査で、実は10年前まで生きていた事が判明し、彼が父方の親族に会いに行くことになった。
正雄が知っていた父の情報は、ロバート・トーラという名前の軍人で、祖父が郵便局員だったということだけである。それだけの情報で全米から探し出すのだから、気の遠くなるような話である。トーラという名前のスペルも分からないので、そこから繰り出されるスペルの可能性だけでも二十万近かった。
そんな中から絞り込んで、正雄に関係していると思われる人々に手紙を出すと、何とノース・カロライナから返信があった。関係者がその家を訪れ、DNA鑑定をすると、確かに正雄の父の家族であることが分かった。その家の廊下には正雄の父の写真が飾られていて、正雄はその写真をNHKのスタジオで生まれて初めて目にしたのだった。71年振りに見る父の写真には、正雄に良く似たハンサムな笑顔が映っていた。さらに、正雄の叔母に当たるジャニタから正雄に、「会いに来て欲しい」という熱烈な手紙も読まれた。父に捨てられたという心の痛み。そのために母がどれだけ苦労したか。正雄が道から外れないようにと、母は命を削って生きてきた。正雄は複雑な心境だったが、今行かないと後悔するという娘の言葉に押し出されて、意を決してアメリカに飛んだ。
父ロバートは、母スエ子との間に子供が生まれたことを知りつつもアメリカに帰り、そのためにノイローゼになっていた。そこで姉のジャニタは、弟に西ドイツに行ってシャキッとしてきなさいと勧めた。それは親子関係を引き裂くことになり、以来、彼女は悔いていた。正雄と会った日、彼女は彼に謝罪する。さらに父方の親族の温かい歓迎によって、彼の心は次第に溶かされていった。
詩篇二七篇10節に、「たとい父母がわたしを捨てても、主がわたしを迎えられるでしょう」とある。人は自分の都合で実の子でも捨てることがあるが、幸いなのは、どんなことがあってもあなたを捨てないと約束される神である。この混沌とした世にあって神の言葉にこそ希望がある。神は愛だからである。
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