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本当の偉大な人 ②

 しかもアメリカ本土では、それが実現されつつあった。

「ハワイは日本に更に近く、すでにパール・ハーバーの苦杯をのまされている。誰にも遠慮する必要はない。堂々と立退き命令を発して、彼らの全財産を没収すべきである」

 と、彼らは中将に押し強くせまった。

 しかしエモンズ中将の心には、本土にのこして来た忠僕・日本人夫婦の声なき声が響いていた。

「ハワイの日本人を守ってください。彼等は決して恩を受けたアメリカに、背徳行為に出る様な人々ではありません。私共と同じ様な人々です」

 との歎願の声が、電波の様に伝わって来る。政治家、実業家の激しい声よりも、エモンズ中将にはこの夫婦の声の方が強く響いた。かくて彼はハワイの一般日本人に対して立退き命令を下さなかった。

 戦前ハワイには、大成功者と自他共に許した人々が、日本人の間に相当数あった。だが日米戦争という大嵐の前に彼らは実に無力であった。この大嵐の中にあってハワイに住む15万の日本人を守った真の人は、エモンズ氏に忠実に仕えた無名の日本人クリスチャン夫婦であった。

 この話は、カネオへ教会の牧師で、今は故人となられた後藤鎮平牧師から承わった話である。後藤牧師は戦後何かの折に、エモンズ中将から直接にこれを聞いたとの事である。彼はこの秘話をそれまでは誰にも話さなかったが、エモンズ氏の忠僕であった日本人夫婦がカネオへ教会の信者であり、後藤牧師がその教会の牧者である事を知った時、はじめて心を割って話されたのだという。


 聖書の中で特別目覚ましい働きをした人には、すべて神の助けがあった。だから、神の前に誇れる人は一人もいない。だが、そういうお互いであればこそ、「人が神を愛するなら、その人は神に知られているのである」(1コリント8・3)とあるように、人に知られることはなくても、神に知られていることを喜び、黙々と神と共に生きる人こそが、真に偉大な人なのだと知るべきである。

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