引退に寄せて ③
- Rev. Tsukasa Sugimura
- 7 日前
- 読了時間: 2分
そのような牧会のスタートではあったが、当時、僕はまだ按手礼を受けていなかったこともあり、ロサンゼルス教会の末広栄司牧師が時々来てくださり、聖餐式とメッセージを取り次いでくださった。僕にとっては、大きな励ましであり、心安らぐ時でもあった。礼拝後はいつも家内と僕を食事に連れて行ってくださる先生に、この時とばかり牧会上の課題についていろいろ訊ねることができた。その時、先生が仰ったある言葉が今も忘れられない。「杉村君、これから牧師として大切なことは、まず奥さんを大事にすることだよ。だから時々こんなふうに食事に連れ出すんだよ」と。牧師のみならず、伴侶を愛することは家庭円満の秘訣である。「夫婦仲良く」は子供達にとっても一番の安心事であり、世への証しになるからだ。これは幾ら強調しても強調し過ぎることはない。末広先生は、夫婦仲が問題で家庭が崩壊してゆく様を、多くの関係者の中に見てきたのであろう。この時の先生の励ましが、今も僕の牧会を支えている。
さて、40余年の牧会を振り返って、今も心痛むことがある。それが前妻・節子の心臓移植の件である。日本人として海外では初めての心臓移植ということもあり、近くに住んでいた長崎大学の心臓外科医に意見を求めると、「何せ前例がないので一体どうなることやら…3週間…3ヶ月…生き延びたとしても半年でしょうか」との応答。僕ら夫婦には、ますます不安だけが募っていった。
やがて運命の日が来た。家内が貰い受けた心臓は、齢20才から23才の白人女性のもので、州外から運ばれてきた。移植するためには、献体者側の心臓を取り出してから3時間以内に移植しないといけない。そこで州外からバーバンク空港に運ばれた心臓を、UCLAの病棟屋上に待機するヘリコプターが回収に行くのだ。その際のヘリの爆音が、その時ほど心強く思えたことはない。
3〜4時間の移植手術を経て、それまでスパゲッティ・コードと言われるほどに家内の体に絡みついていた管が一切なくなって、スッキリとした顔で病棟に戻ってきた。退院の日、UCLAの暗い地下駐車場から出、眩しいほどのカリフォルニア・ブルーの青空の下、家内は言った。「ああ、なんて綺麗な空、なんて美しい草花でしょう」と。その日は家内の41回目の誕生日であった。



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